2011年12月29日

『ザ・カブキ』西宮と松江

西宮と松江の『カブキ』の感想をごく簡単に。

西宮のキャストは、後藤さんの由良之助と吉岡さんの顔世でした。後藤さんの由良之助は当たり役だと思うんですが、さらにときどき何か「降りてくる」ときがあります。この日の後藤さんも、比較的「降りてきて」いるときの由良之助でした。そしてやはり、細かな芝居などは流石だし、とても上手いな、と。例えば、刀を手にした瞬間にスッと何かが入ってくるような表現だったり、刀に引っ張られるように異次元に入り込み、フッと現実に引き戻されたりする表現など、とてもわかりやすいし、やり過ぎず自然。一力茶屋での、酔っ払いに見せかける加減なんかも上手い。踊りのほうも好調で、血判状の後のソロは力強くて、とてもよかったです。そして、1幕ラストのソロも、スタミナを残したほうではないか、と。

何と言ってもこの日は、私の中で一番、物語が一本に繋がった舞台でした。山崎街道のラスト、勘平の切腹から由良之助の決意のソロまでが、ストンと繋がったんです。この日、久々に私の中でここが完璧に繋がったことで、この場面の重要性を改めて思い出しました。勘平の切腹を受けて、これ以上こうした家臣たちの不幸な出来事が続かないように、由良之助は仇討ちを決心するわけです。勘平の切腹に説得力がないと、由良之助の決心にも説得力がなくなってしまうんですよね。もちろん、見る側の私の調子にも影響を受けるわけですが、この日はここが上手く繋がったんです。そうなると、由良之助のソロを経て、休憩を挟んでも、私の中のテンションは持続して、物語の最後まで持っていくことができます。
さらにこの日の顔世は吉岡さん。もうなんていうか、ただ事ではないです、やはり。塩冶判官の切腹の場面で、後ろを横切る顔世。「雪の別れ」の冒頭、花がすべて散った桜の枝を持ち、紫の着物で登場する顔世。ちょっと人を超越しているというか、現実なのか幻想なのか、判別し難い存在感を放っています。その吉岡さんの顔世の「雪の別れ」を受けて、それに続く「討ち入り」の場面が説得力を持ってワーッと押し寄せてくる。勘平の切腹から由良之助のソロに繋がった流れが、休憩を挟んでもなお持続し、「雪の別れ」から「討ち入り」でさらに凝縮した流れを生む。今回の4公演の中では、一番その流れを感じることができた舞台でした。他の日が繋がりがなかったというわけではないんですが、フッと自然に感じたのはこの日でした。


松江の楽しみは、何と言っても日本初披露の奈良さんの顔世御前でした。とってもよかったです〜♪ 初々しい舞台でした。「兜納め」では、表情から内面を読み取ることをさせない、毅然とした佇まい。美しく、強い女性かと思いきや、直後に師直に言い寄られる場面ではその仮面がスッと取れたように、弱い女性の表情を見せます。3人の顔世の中では、一番人間らしい顔世だったかもしれません。吉岡さんはなんだか超越しちゃってるし(褒めてます)、二階堂さんもそのスタイルのためか異次元の空気感を持っているんですが、奈良さんはとても女性らしい、人間らしい顔世だったと思います。波とともに流されていく「雪の別れ」の場面では、力及ばない不甲斐なさというか、女の無力を非常に口惜しく、もどかしく感じました。奈良さんの顔世も、これからどんどん深めていってほしいなと、先がとても楽しみになりました。
今後、吉岡さんが顔世を踊る機会が減ると、弾&二階堂、後藤&奈良という組合せになるんでしょうか。後藤さんと奈良さんの組合せも見てみたいなぁ〜。

弾さんの由良之助は松江でも好調。1幕ラストのソロでは、照明が赤くなってからも、東京の2日目のときよりスタミナを持続していたと思います。終盤、照明で舞台が赤く染まってからの踊りには爆発力がほしいところなんですが、如何せん長いソロの終盤なのでなかなか厳しいものがあるようです。舞台数を踏み、経験値を上げてきている弾さんですから、今後にさらに期待したいと思います。
スタミナだけでなく、踊り自体にも経験がものを言い始めているような気がします。力の出し入れが上手くなったというか。ここは力を入れると格好良く見えるとか、ここは抜くと逆に印象的になるとか、そういう見せ方も上手くなってきているのかも。やはり、実際の舞台を踏むというのは、とても大きなことなんだなぁと思いました。

冒頭の「現代の東京」のソロは、西宮は氷室さん、松江は高橋さんで、東京の組合せと同じでした。松江の冒頭に木村さんがいました。あれ? 東京公演でも「現代の東京」に出てましたっけ? 出てたとしたら、すっかり見逃してましたよー。松江では高橋さんのソロの後ろで踊ってました。キーボードを叩く姿、久々に見たなぁ(♪)
松江でも、「討ち入り」の場面で見事な宙返りを見せてくれた高橋さん。あの宙返りが入るのは高橋さんのときだけなんですよね。その辺は、団が彼の個性を認めているというのが、なんだか嬉しいなぁと思ったりしました。

西宮でも松江でも、木村さんは討ち入りのセンターを踊ってくれました。松江キャストのカーテンコールでは、舞台をコの字に囲んだ四十七士の先頭(一番客席寄りの位置)に木村さんと高橋さんが配置されます。グルッと走り込んできて四十七士が一列に並んだとき、両端にいた2人がセンターにくるようになっているんです。そして四十七士がもとの位置に戻るとき、センターの2人(木村さんと高橋さん)が笑顔で視線を交わして走り出す様子が、妙に好きでした。
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2011年12月21日

東京バレ団『ザ・カブキ』2日目−その2−

東京バレエ団『ザ・カブキ』2日目。弾さんと二階堂さんのことしか書けなかったので、もう少しだけ。初日のことも混ざってくるかもしれませんが。

と言いつつ、弾さんのことなんですが。由良之助の衣装で唯一肌が見えるのは、肩から腕にかけてだけなんですが、これが非常に綺麗な腕で感心してしまいました。綺麗に筋肉の付いた逞しい腕なんですが、それでいてゴツくなく、しなやかで柔らかそう。ソロの中で肩を使うところなどでは、思わずハッとさせられました。もともと雑な踊りをする人ではなかったけど、さらに神経を行き渡らせようと丁寧に踊っているのが感じられるし、爪先もどんどん綺麗になるし、先が楽しみだなぁと思いました。

初日の感想で一つ勘違いしているところがあったので。勘平が切腹をして、周りの人物がストップモーションになったところへ、同志たちの幻が現れるのが印象的だったと書いたんですが、順番が違いました。まだ切腹をする前、勘平が生きているうちから、血判状の場面の衣装を来た同志が3人登場するんです。まだ生きているうちに登場して、しかも(たぶん)勘平以外の人間には見えていないんですよね。あぁ、勘平はもうこちら側の人じゃなくなっちゃったんだな〜と思って、印象的だったんです。

宮本さんの塩冶判官がとてもよかったです(初役のはず)。筋の通った真面目な男で、物静かな佇まいの中に熱いものも持っている。言葉で多くを語るよりも、目がものを言う風情があり、最近の宮本さんはとてもいい目をするようになっていたので、それが活かされていたと思います。殿中松の間での怒りの目には、滅多に怒らない(想像)真面目な男が、ついに正当に怒ったという迫力があったし、逆に切腹の場面での静かな目も印象的でした。由良之助が到着しないことを力弥に告げられ、いよいよ覚悟した宮本さんの判官は、静かに目を伏せたんです。目を伏せたまま体勢を戻し(力弥に尋ねるときは前屈みになっているので)、静かに瞼を上げると、四方を掴みます。こういう静かな覚悟の目というのもいいな〜、と。思わずいじめたくなるような長瀬さんの判官もいいけど、宮本さんの男らしい判官も好きでした。

長瀬さんの勘平はナヨナヨしてていいよね〜(褒めてます)。なんかもういっぱいいっぱいで、「山崎街道」の冒頭では、勘平を気遣うおかるに対しても、「俺は、俺は…」と逃げてしまう。そんな長瀬さんが印象的でした。佐伯さんのおかるは、何気に色気があって好きです。踊りも演技にも説得力があるなぁ、と。
定九郎の小笠原さんは、この日はほんのちょっと余裕がなかったかも。「山崎街道」の六方を踏む見せ場では、傘が一発で開かず、そんな不運も重なったりしました。いや、決して悪くはなかったんです。討ち入りのヴァリエーションもよかったし。
氷室さんの伴内もやっぱり好きです〜。あの軽さがいい。小出さんの遊女は初役でしょうか? 可愛かった〜♪ しかも賢さを持っている。そして、何と言っても存在感がありました。梅澤さんも井上さんも、現代の勘平がすごくいい。こうなると勘平も踊らせてみたいなぁ、と。

2日目の討ち入りにも木村さんがいました。嬉しすぎる〜。この日の先頭の2人は木村さんと長瀬さん(初日は松下さん)でしたが、涅槃で最初に踊り始めるのは木村さんと松下さんでした。もう木村さんの討ち入りは見られないだろうと思っていたので、この2日間は本当に夢のようというか、幸せでした。
討ち入りで見事な宙返りを見せてくれたのは高橋さん。これ、結構楽しみにしてるんですよね〜。2日目は「現代の東京」のソロも高橋さんでした。白のニット帽と、手首と肘に白のリストバンド。因みに、下手後方で踊るもう一人のソロは2日間とも岡崎さんだったようです。彼もリストバンドをしていたので、ソロを踊るダンサー用なのか、お2人のアイディアなのか、気になるところです。

ごく簡単ですが、とりあえずこれだけ〜。
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2011年12月19日

東京バレエ団『ザ・カブキ』2日目(12/18)

東京バレエ団『ザ・カブキ』、東京公演が終了しました。今日は若手組の日。今日もすごくいい舞台でした〜♪ 弾さんの由良之助がさらによくなってた! 若いってすごいな〜。なんて成長が早いんでしょう。もちろんそれだけじゃなく、彼の努力や、舞台で経験を踏むことが大きな助けになっているとは思うけど、思わず「若いっていいなぁ」と思ってしまった。最近ぐっといい表情をするようになったもんな〜。人は、踊りが変わるときは顔つきも変わるものですよね。「現代の東京」での最初のソロでは、その成長ぶりに思わずゾクッとしました。前回よりも自信が感じられる眩しい存在感で、求心力があり、伸びやかな踊りはさらに伸びやかに、そして若さゆえの嫌味のないけれん味があり、笑みを浮かべて踊る姿は、なるべくしてリーダーになった若者を感じさせました。貫禄とまではいかないまでも(以前よりも貫禄は出たと思うけど)、舞台の中心であることに疑いはありませんでした。血判状の後のソロもすごくよかった。キレのあるパワフルな踊り。でも、フッと柔らかく踊るところもあって、メリハリも感じさせました。1幕ラストのソロ(高岸さんのインタビューによると7分30秒だそうです)では、前回よりもスタミナを持続させていました。でも、彼にはもっと期待しちゃうよな〜、と。高岸さんのときは「スタミナがすべてじゃない」と書きましたが、やはり若い弾さんには思わずそこも期待してしまいます。討ち入りも終盤になってくると、少しずつ余裕がなくなってくるんですが、それもまた応援したくなる人なんですよね〜。なんだかわからないけど応援したくなるっていうのは、カリスマとは言わないまでも、人を惹き付ける魅力があるってことだと思うので、いいことなんじゃないか、と。弾さんもどんどん成長してきてるし、松下さんや宮本さんもまだまだ伸びてるし、梅澤さんや井上さんもいい感じだし、中堅から若手が安定してきたなぁ、と。

二階堂さんの顔世も、初演に引き続きやはりよかったです。弾さんはグッと成長した感じが強かったけど、彼女の胆の据わった感じは前回と同様で(本人はドキドキだったと思いますが)、すごいなぁ、と。踊っていてもいなくても、あの楚々としていながらどこかしら芯の通った強さのある佇まいで、目を惹く存在感がありました。ポーズや振りも綺麗だし、過剰さもなく、踊り自体もとてもよかったです。討ち入りの直前、波に流されていく彼女は、以前よりも存在に力強さが増していました。そして、最後にとてもいい表情をした。決して大袈裟ではない控えめな表情の中に、顔世の悲しみや失意や無念、諦めなど、様々な思いを滲ませていて、秀逸でした。

遅くなったので寝ます。続きが書けるかどうか…。宮本さんの塩冶判官がよかったとか、書きたいことはあるんですけど、最近全然言葉が出てきません。自分の中で、吐き出す必要がなくなったということでしょうか。よかったものは「よかった」でいいじゃないかとか、それじゃ味気ないじゃないかとか、なんかモヤモヤ考えたりします。ちゃんと書いておかないと、後悔するのは自分なんですけどね〜。

キャスト表は昨日と同じ。ヴァリエーション2の配役は、配られたキャスト表ではなくHPに掲載されているものが正しいです。ただミスプリに気が付いていないだけなのか、変更を直してないのか。

■ 東京バレエ団『ザ・カブキ』
2011年12月18日(日)15:00 東京文化会館

大星由良之助:柄本弾
直義:森川茉央
塩冶判官:宮本祐宜
顔世御前:二階堂由依
力弥:吉田蓮
高師直:松下裕次
判内:氷室友
勘平:長瀬直義
おかる:佐伯知香
現代の勘平:井上良太
現代のおかる:河合眞里
石堂:杉山優一
薬師寺:梅澤紘貴
定九郎:小笠原亮
遊女:小出領子
与市兵衛:永田雄大
おかや:田中結子
お才:西村真由美
ヴァリエーション1:小笠原亮
ヴァリエーション2:長瀬直義
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2011年12月18日

東京バレエ団『ザ・カブキ』初日(12/17)

東京バレエ団『ザ・カブキ』、初日の公演を見てまいりました。やっぱり好きだ〜、カブキ。なんかもう、東バへの愛着と、作品への愛着と、ベジャールへの愛情と、いろいろなものが入り混じって、冒頭から無償に愛しかったです。
今回リニューアルされたというオープニングの「現代の東京」の場面ですが、思ったほど違和感はありませんでした。印象はほとんど変わらないと思います。ベジャールの意向を尊重して「白」の衣装を継承。下は白のジャージに、上は白のTシャツやランニング等。主要人物たちの衣装は変わりません。そして、テレビがブラウン管から液晶へ。スカイツリーが登場したり、カラーバーが歌舞伎の定式幕に変わるアイディアなどもあり、映し出される映像もリニューアルされていました。最後はもちろん、日の丸ドーンです。

今日の公演は、高岸さんの国内では最後の由良之助だったわけですが、正直まだ踊れると思いました。あと数年は大丈夫じゃないか、と。流石に1幕最後の7分間のソロでは、以前の高岸さんに比べたら終盤のスタミナが落ちていましたが、それだけが大事なわけじゃないし。でも、ご本人が決めたことなんだから、きっとこれで一番よかったんだと思います。寂しいけど。次にいつカブキの公演があるかわからないし、そのときに自分の身体がどうなっているかもわからない。自分にとって本当に大切な作品だからこそ、うやむやにしないで自分の意志で幕を引きたいと、今回を最後と決めた理由について高岸さんは語っていました。同時に、限られた上演回数の中で若手にチャンスを与えていく必要もあると。確かに、次にカブキが上演されるのは1年後かもしれないし、5年後かもしれない。次の公演が判明していたとしても、そのときに満足できる踊りができるかどうかわからない。「自分で幕引きを決めたい」、それはこの作品や役に対する高岸さんの愛情だったのだと思います。

「殿中松の間」の場面が好きなんです。木村さんの師直がたくさん踊るからというのもあるけど。長瀬さんの塩冶判官の存在感が、木村さんの師直とバランスが取れてきたな、と。どこからどう見ても悪人面で(褒めてます)、美しい爪先と抜群の踊りの安定感でバシバシ、スパスパ踊る木村さん。ちょっと甘ったれな感じすらするナイーブ・フェイスで(褒めてます)、これまたキレのある安定した踊りを見せる長瀬さん。木村−平野のときとはまた違う緊張感があり、見応えがありました。

しかし、何と言っても嬉しかったのは、久々に四十七士の中に木村さんがいたことです。それも思い切りセンター(ピラミッドで由良之助の次にいる2人)です。いや〜、踊る踊る。高岸さんの最後の由良之助を見なきゃいけないとは思いつつ、自然と目は木村さんを追います(1回だけ間違えて森川さん見てた…)。高岸さんも渾身の由良之助だったけど、木村さんも渾身の四十七士でした。本当に久々に(もう見られないと思ってた)四十七士を踊ったのは、高岸さんの最後の由良之助だからでしょうか。後藤さんも塩冶判官の亡霊で出演していたし(これは今回だけのことじゃないけど)、3プリンシパルが揃ったな、と。木村さんと一緒にトップの2人を踊ったのは松下さん。新旧の師直が肩を並べて踊っていました。これから東バは、さらに世代交代していくのかもしれない。いや、確実にしていきます。2人の姿を見ながら、寂しいような頼もしいような、少しだけ複雑な気持ちがしました。

塩冶判官切腹の場面。ゆっくりと時間をかけて高まった緊迫感が、バサッと下りてきた血痕の幕で解放されるまでの畳みかけがすごい。この場面と討ち入りは、思わず身体を緊張させて見てしまいます。今回の長瀬さんの切腹もよかった(って言い方はどうかと思いますが。。。)。前回も美しいと思ったんだけど、今回はさらに甘さが増していたように思います。ただ、初回に見たときのほうが衝撃はあったかも。あの、唇の濡れた(実際に濡れていたかどうかはわかりません)鬼気迫る美しさは、前回のほうがありました。それにしても、塩冶判官のときの長瀬さんの濡れたような目は美しい。
力弥の井上さんが可愛かった〜。可愛い、可愛いと思っていた井上さんですが、前回の力弥より男っぽくなったような気もします。「由良之助はまだか!?」と尋ねられ、あたりをキョロキョロと探す姿が、いい。

松下さんの定九郎も高橋さんの伴内も格好良かったし、宮本さんの勘平の打ちひしがれっぷりもよかった。自分が義父を殺したと思い込み切腹するまでの勘平は、ほとんど茫然自失。ストップモーションした登場人物たちの中に、血判状のときの衣装を着た同志たちの幻が入ってきて、二つの世界が重なり合った瞬間が、今日は妙に印象的でした。猪が相変わらず可愛すぎる。「雪の別れ」の場面の水香さんは、「運命の女」たろうとしているんだろうなぁという気持ちは伝わってきました。

高岸さんを中心に、徐々に踊りが広がっていく涅槃の場面は、一つ、また一つと、浄化された魂がスーッと上空へ昇っていくような美しい光景です。今日はそこに木村さんがいてくれて本当によかった。最後にもう一度ピラミッドを形成するとき、舞台の中央を前進してくる由良之助は、左右の袖に「さあ、さあ」と手を差し伸べて同志たちを導き入れます。あのときの高岸さんは、由良之助であり、高岸さんでもありました。
相変わらず若々しく精悍な高岸さんの由良之助ですが、一力茶屋で飲んだくれてる姿はちょっとだけおじさんでした(笑)。


カーテンコールは何度も続き、高岸さんに惜しみない拍手が送られました。飯田さんが登場して、高岸さんに花束を渡す場面も。私がバレエを見るようになり、やがて初めて『ザ・カブキ』を見たときから、高岸さんは当たり前のように由良之助を踊っていました。私にとっては由良之助=高岸さんというほど、この役と高岸さんは切っても切れないものでした。寂しいけど、今は「お疲れ様でした」と、そして「ありがとう」の気持ちでいっぱいです。

配られたキャスト表ではヴァリエーション2は長瀬さんになっていたんですが、踊ったのは宮本さんでした。HPで発表されているキャスト表は正しく宮本さんになっています。

東京バレエ団『ザ・カブキ』
2011年12月17日(土)15:00 東京文化会館

大星由良之助:高岸直樹
直義:柄本弾
塩冶判官:長瀬直義
顔世御前:上野水香
力弥:井上良太
高師直:木村和夫
判内:高橋竜太
勘平:宮本祐宜
おかる:小出領子
現代の勘平:梅澤紘貴
現代のおかる:高村順子
石堂:谷口真幸
薬師寺:安田峻介
定九郎:松下裕次
遊女:吉川留衣
与市兵衛:永田雄大
おかや:田中結子
お才:西村真由美
ヴァリエーション1:松下裕次
ヴァリエーション2:宮本祐宜
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2011年11月18日

『エオンナガタ』初日

『エオンナガタ』初日の公演に行ってまいりました。
最初はどうなるかな〜と思いながら見ていた部分もあったんですが、最終的には面白かったです。自分でも気付かないうちに身構えていたのは、「海外のアーティストが扱う日本」という部分だったんだと思います。でも、よく考えたら、題材は日本のものではないし、日本で上演することを意識して作ったわけではないのに、ここまで日本の文化を取り入れているというのは嬉しいな、と。3人が3人とも、本当に日本の文化を好きだと(あるいは興味深いと)思ってくれているんだろうなということが感じられました。

プログラムでギエムの言葉が引用されていたとおり、これは「ダンスもあるスペクタクル」だな、と。とは言え、芝居の中にダンスのシーンがあるのとは歴然と違います。そういう意味では、やはりダンス公演なのかな、とか。ギエムとマリファントの動きはしなやかで美しく、格好良い。踊っていなくてもその動きはダンス的と言いますか、見惚れてしまいます。ロベール・ルパージュも一緒に踊る場面があります。その動きは明らかに2人とは違いますが、彼がダンサーではないことを考えれば、あれだけ動けるのはすごいと思いました。というか、彼はダンサーとして踊っていたのではなく、役者として踊っていたのだと思います。とにかく、上手い。全編を通して「役者だな〜」と思わずにはいられませんでした。そしてちょっと可愛い。チャーミングなんですよね〜。作品にはクスッとさせれる場面などもあり、ルパージュの持つユーモアなのかな〜と思ったりしました。

衣装も面白かったし、照明も格好良かったです。基本となる衣装はラインの入ったレオタード。これが格好良かった。その上に、場面によって着物を羽織ったり軍服を着たりします。女性の姿になるときの、骨組みだけのスカートもよかったです。それはスカートであるけれど、肉のついていない形だけの姿。しかし優雅に揺れます。それが彼を閉じ込める檻のように感じられる瞬間もあり、面白かった。
そして、何と言っても照明が格好良かったです。バレエでもなんでも、舞台芸術における照明の持つ力の大きさを改めて感じさせられたというか。本当に、全編を通じて照明が印象的でした。まあ、それを言うなら、衣装も音楽も場面ごとに面白かったので、大事なのは照明だけではないわけですが。ラスト、解剖台を照らすライトが上から伸びてきて、それが次第に大きく左右に揺れ、上手と下手に分かれたギエムとマリファントを順に照らすのが格好良かったです。そういうわかりやすい格好良さも、何気ない格好良さも、両方がありました。

台詞やナレーションは、舞台両サイドの電光掲示板に字幕が出ますが、できれば開演前にプログラムを読んでおかれることをオススメします。ほぼすべてプログラムに書かれているので、サッと一読しておくだけで、掲示板よりも舞台に集中できます。マリファントの台詞がとても自然で驚きました。声も素敵。さらに、歌も上手なんだな〜、と。ギエムの話し方って、なんだかチャーミングですよね。サバサバしてるし、台詞としては少し慣れていない感じはするんですが、なんか可愛いんですよね。

序盤に、3人がテーブルと椅子を使って踊る場面があります。助走をつけてお尻から机に飛び乗り、スーッと滑っていったりして面白い。3人とも笑顔だし、なんだか楽しげな場面なんですが、この作品を作っているときの3人って、こんな感じだったんじゃないかな〜と思ってしまいました。あれこれ意見を出し合って、試してみて、上手くいって喜んだり、失敗して笑ったり。刺激しあう3人の創作の現場を垣間見たような気分になりました。

終盤、行き場を失ってからのエオンが痛々しくてなりませんでした。ルパージュがいいんですよ〜。自らの性の行き場すら失ったエオンの異形さが胸に刺さります。鏡によって内面を表現するだけでなく、むしろ外見の交錯を浮き彫りにしているようで面白かったです。
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2011年11月17日

『HOPE JAPAN』富山(7日)/倉敷(9日)「白の組曲」「詩人の恋」

『HOPE JAPAN』富山と倉敷の感想を、東バの演目だけ、、。キャストの詳細は→こちらで。

「白の組曲」のシエストに奈良さんが入って、東京とは違うキャストになってました。もともとこういう予定だったのか、急遽変更になったのかはわからないんですが(パッと見、コール・ドにも渡辺さんはいなかったような気がする)、奈良さんのシエストもよかったです〜。一人変わると、また雰囲気が変わりますね。ちょこちょこお疲れの様子が見られる中、シエストはずっと安定していたな、と。ちょっと疲れが出ているのかなと思ったのは、女性陣の回転系が決まらない瞬間がちょっと増えてたので、、。特に、ヴァリエーション最後の回転が決まらないと、拍手のタイミングが微妙に遅れてしまうのが、ファンとしてはすごく口惜しかったです、、、。
西村さんのセレナードは絶品♪ 彼女の踊りはもともと好きだけど、これはかなり好きなほうに入るかも。エレガントで、メリハリのある踊り。流れるような踊りと、止めのポーズの美しさ。後姿の美しさにもウットリでした。吉岡さんが前髪を上げてた! 東京のあの前髪は、「スプリング・アンド・フォール」仕様だったのか? 小出さんの安定感はすごいなぁ、と。マズルカの後藤さんは、富山のほうが回転系が決まっていたので、調子が良さそうに見えました。終盤のマネージュは、富山は弾さん、倉敷は木村さん。まさか木村さんがマネージュを担当するとは思ってなかったので、完全に油断してましたー!! 動揺している間に終わってしまいましたが(苦笑)、幸せでした〜。弾さんのマネージュも、持ち前のパワフルさで、悪くないんですけどね〜。そういえば、弾さんはザンレールのときに毎回スッと5番で着地するのが気持ち良いな〜、と。木村さんは東京に引き続き、笑顔多めでとっても楽しそうでした。田中さんと視線を交わす瞬間が好きだな〜♪、と。アダージュの二階堂さんもとてもよかったです。まだ少し、あの長い脚を持て余しているようだったり、パ・ド・ドゥに不慣れな印象はありましたが、それはこれから場数を踏めば解消されるだろうな、と。これまでの、役付きで舞台に上がった経験数を考えれば、あの落ち着いた舞台はすごいなと思いました。なんとなく、水香さんのときよりも弾さんがサポートしづらそうだったのは、女性側の慣れ不慣れに関係があるのか、疲れが出たのか。二階堂さんの腕がとても綺麗でした。腕の「運び」とまではいかないまでも、伸ばしたときの腕のフォルム。長くて、先がスッと細くなっているのが優しいフォルムを生み出します。オデットが見てみたいな〜と思う瞬間がありました。その腕にも、そして脚にも、これからもっと詩情が感じられるようになれば、さらに素敵だろうな〜と思いました。いや、今の二階堂さんも十分に魅力的だと思うんですけどね。彼女はまったく悪くないんですが、スピード大抜擢だった二階堂さんは、例えばコール・ド時代から応援していたというわけではないので、愛着という意味ではまだ薄いんですね。かつての小出さんや、最近では田中さんや高木さんが主演を踊るときの、「感慨一入」というのがないと言いますか。いや、だからどうだってわけではないんですが、、。決して彼女を悪く言いたいわけではないので、あしからず。

海外で先に上演され、今回のツアーで日本初披露となった水香さんと高岸さんの「詩人の恋」。もちろん、私は作品自体が初見です。幕が開くと、バーの前でポーズをとる水香さん。「ドン・ジョヴァンニ」と同じ、ピンクのレオタード姿です。ゆっくりと身体を伸ばし、様々なポーズを作っていきます。ピエロの扮装をした高岸さんが登場。音楽が変わり、途端に水香さんのポーズもクラシカルなものから、ベジャールらしい動きに変わる。「そこにいてね」と言われたのに、バーを片付けるピエロの後をついていってしまい、ピエロに見付かって慌ててもとの場所に戻る、そんな遣り取りも可愛い。やがて道化は衣装を脱ぎ捨て、詩人が姿を現します。詩人の高岸さんはシンプルなレオタード姿。可愛らしいパ・ド・ドゥで、それぞれに踊りの見せ場もある。
「ドン・ジョヴァンニ」同様、もしかしたらそれ以上に、水香さんの可愛らしさが活かされていたと思います。私としては、コケティッシュな表現はもう少し控えめなほうが好みだったかもしれませんが、、。高岸さんも、ちょっとお腹周りにお肉がついてきたかな〜と思う部分はありましたが、あの道化の衣装を着こなせるのは高岸さんくらいしか今のところいないかもしれない。踊りも相変わらずパワフルで、見応えがあります。
ただ、なんとなく、何かがスコンと抜け落ちているような気がしました。何か、こう胸をクッと捕まれるようなものが、もっとあると思っていたんですが、、。切なさとか余韻が、あまり残らなかった。ラスト、少女がいなくなり、残された詩人がしっとりと踊りあげる。前方上空にスッと腕を伸ばした姿を、その腕を、闇が包み込むように暗転して終わります(確か)。終わり方もとても素敵なんですが、なんとなく作品全体から香ってくるものが、私が想像していたよりは少なかったように感じたんです。
中一日空いて倉敷公演。その間、いろいろと考え、もしかしたら私の見方が間違っているのではないかと思い、今度は何も考えずに楽しもうと臨みました。同じくベジャールの「ドン・ジョヴァンニ」が、ただひたすら幸せな気分になれるように、「詩人の恋」も目の前の可愛らしいパ・ド・ドゥを堪能しよう、と。そう思って見てみると、とても楽しかった。この満足感を大事に持って帰ろう、と。ただ、やっぱりこうして書くからには(勝手に書いてるんですが)、異なる2つの感じ方を経験したことを、書かずにはいられませんでした。
今回、見る前にはプログラムを読んでいませんでした。自分が2つの感想を抱いたこともあり、遠征から帰宅後に初めて「詩人の恋」の作品解説を読んでみたんです。「(詩人は)孤独と愛と悲しみを感じながら、やがて永遠を見つける」とありました。ん〜、、。そこまでの感情は抱けなかったかもしれません…。
私としては、「チェロのための5つのプレリュード」で素敵なパートナーシップを築いた吉岡さんと高橋さんにも踊ってほしいと思ってしまいました。しかし、最初にも書きましたが、あの道化の衣装を着こなせる人間は少ないかもしれません。それと、高岸さんの持つ魅力も他にはないものがあります。完全なる陽性かと思いきや、ロマンチックだったりメランコリックな面も持ち合せている。水香さんに不満があるわけではありませんが、この作品に非常に合っているようでいて、もしかしたら違う空気を持ち合せているのかもしれない。しかし、そもそもこの作品が本来持っている空気を私は知らないわけです。目の前の作品を楽しめばいいじゃないかという気もしますが、やはり振付家が作品にこめた思いを大切に感じたいとも思います。
なんだか、批判しているように聞こえてしまうかもしれませんが、そのつもりはないのでご理解を頂ければ、、、と。作品は好きだし、是非また上演してほしいと思ってるんです。
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2011年11月12日

『HOPE JAPAN』富山/倉敷

『HOPE JAPAN』ツアー、富山(7日)と倉敷(9日)の公演に行ってまいりました。本当は今日(11日)の広島も行きたかったんですが、ちょっとそこまでは無理だった…。とりあえず、平日の公演であることと、『詩人の恋』が見られること、この2点で富山と倉敷を選びました。どちらの公演も木村さんがマズルカを踊らないので迷ったんですが、テーム・ヴァリエだけでも見られればいいかな、と。

とりあえずキャストをUPしておきます〜。

シルヴィ・ギエム&東京バレエ団 『HOPE JAPAN』 【富山】
2011年11月7日(月)18:30 オーバード・ホール

−第1部−
「白の組曲」
振付:セルジュ・リファール、音楽:エドゥアール・ラロ「ナムーナ」からの抜粋
シエスト:乾友子、高木綾、奈良春夏
テーム・ヴァリエ(パ・ド・トロワ):田中結子、木村和夫、柄本弾
セレナード:西村真由美
プレスト(パ・ド・サンク):佐伯知香、松下裕次、長瀬直義、小笠原亮、宮本祐宜
シガレット:吉岡美佳
マズルカ:後藤晴雄
アダージュ(パ・ド・ドゥ):二階堂由依、柄本弾
フルート:小出領子
東京バレエ団

【休憩】

−第2部−
「ルナ」
振付:モーリス・ベジャール、音楽:ヨハン・セバスチャン・バッハ
シルヴィ・ギエム
「詩人の恋」
振付:モーリス・ベジャール、音楽:ロベルト・シューマン、ニーノ・ロータ
「Two」
振付:ラッセル・マリファント、音楽:アンディ・カウトン

【休憩】

−第3部−
「ボレロ」
振付:モーリス・ベジャール、音楽:モーリス・ラヴェル
シルヴィ・ギエム
松下裕次、長瀬直義、宮本祐宜、梅澤紘貴

<シルヴィ・ギエム・オン・ステージ2011>HOPE JAPAN 【倉敷】
2011年11月9日(水)19:00 倉敷市民会館

−第1部−
「白の組曲」
振付:セルジュ・リファール、音楽:エドゥアール・ラロ「ナムーナ」からの抜粋
シエスト:乾友子、高木綾、奈良春夏
テーム・ヴァリエ(パ・ド・トロワ):田中結子、木村和夫、柄本弾
セレナード:西村真由美
プレスト(パ・ド・サンク):岸本夏未、高橋竜太、長瀬直義、小笠原亮、宮本祐宜
シガレット:吉岡美佳
マズルカ:後藤晴雄
アダージュ(パ・ド・ドゥ):二階堂由依、柄本弾
フルート:小出領子
東京バレエ団

【休憩】

−第2部−
「ルナ」
振付:モーリス・ベジャール、音楽:ヨハン・セバスチャン・バッハ
シルヴィ・ギエム
「詩人の恋」
振付:モーリス・ベジャール、音楽:ロベルト・シューマン、ニーノ・ロータ
「Two」
振付:ラッセル・マリファント、音楽:アンディ・カウトン

【休憩】

−第3部−
「ボレロ」
振付:モーリス・ベジャール、音楽:モーリス・ラヴェル
シルヴィ・ギエム
松下裕次、長瀬直義、宮本祐宜、梅澤紘貴
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2011年11月04日

シルヴィ・ギエム・オン・ステージ2011 Bプロ 10月29日〜その2〜

ギエムが踊ったのはフォーサイスのパ・ド・ドゥと、マッツ・エックのソロ。フォーサイスの「リアレイ」は2011年7月5日初演。「アジュー」は2010年12月初演です。いずれも日本初演。ギエムが「今、これ」と思うものを披露し、それが観客に受け入れられたときの、あのカーテンコールでの笑顔。あの笑顔がなんとも言えず好きなんです。これからも新しいものを見せてほしいなぁ、と。『エオンナガタ』も楽しみです。

「リアレイ」は、日常の延長線上に始まります。まだ客席が暗転しないうちに、ギエムとムッルがスタスタと歩いて舞台に登場。開演のアナウンスがあったので、観客は着席しているとはいえ、予期せぬ出来事に一瞬心が騒ぎます。と思う間もなく、サッと暗転。またしても心を持っていかれる。なんというか、ちゃんと心の準備ができてないうちに、ワーッと作品に引きずり込まれていく感じが面白かったんです。私はいつも、一瞬の暗転の間に、「さあ、これから作品の世界に入るぞ」と、気持ちと呼吸を整えているんですよね。
その後も作品は、暗転を繰り返しながら踊られていきます。舞台が暗転して姿が見えなくなるまで踊り続ける2人。踊る身体がスーッと闇に消えていく瞬間が印象的でした。見えなくなる直前の像が目に焼きついて、一瞬の暗闇の中、脳裏で再生されるようでした。暗転の前に、一瞬フワッと照明が発光するのも格好良かったです。


フォーサイスも格好良かったけど、やはりBプロの白眉はエックの「アジュー」でした。
「アジュー」の舞台には1枚の扉。そこに映像が映し出されます。幕開き、ギエムの大きな目がこちらを覗き込んでいます。扉いっぱいに映し出されたギエムの瞳は、どこか不安げ。ゆっくりと遠ざかっていくと、やがてギエムの全身が映し出されます。そして、同じ衣装を着た本物のギエムが、映像から出てきたみたいに、扉の向こうから姿を現して踊る。一人の女性の内面のモノローグを踊るかのようなギエム。不安、孤独、葛藤、疑心…。「アパルトマン」のパ・ド・ドゥでエックが描いた扉は、自分と他者、自分と世界を繋ぐ扉のようでした。「アジュー」で描かれている扉は、もっと奥、彼女の中の扉のような気がします。彼女は、扉を通って外の世界に出て行くのではなく、他者と繋がることを決意する自分へと出て行くのではないか、と。
スクリーンには老若男女、犬までもが登場します。終盤、扉には人だかりができて、ギエムの様子を覗き込んでいます。どこか、彼女のことを心配しているような雰囲気。その様子に気付いたギエムは、恐る恐る扉の中に片足を突っ込みます。映像の中に彼女の脚が入り込む。そして、完全に映像の中に入ったギエムは、こちらを振り返りつつ、雑踏の中に消えていきます。
なんとなくあの扉が、この世とあの世を繋ぐ扉のようにも思えて、無性に寂しい気持ちにもなりました。作品のタイトルは「アジュー」=さよなら。彼女は何に「さよなら」をしたんでしょうか。彼女はこの世界にさよならを告げたのではなく、この世界で生きていくために自分の中の世界にさよならをしたのではないか、と。雑踏に消えていった一人の女性。彼女は世界の中で生きていくことを選んだんじゃないのかなと思いました。
世界で生きていくということは、これからもシンドイことがたくさんあるということ。それでも、彼女はそちらを選んだのかな〜、と。そう思うと、漠然とした不安や孤独の中にも、どこか励まされるというか、とても優しい作品だなと思いました。マッツ・エックという人がとても気になります。
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2011年11月03日

シルヴィ・ギエム・オン・ステージ2011 Bプロ 10月29日〜その1〜

シルヴィ・ギエム・オン・ステージ2011、Bプログラムはコンテンポラリーで構成された公演でした。ギエムはフォーサイスの新作をムッルと、そしてエックの新作をソロで踊りました。ギエムが踊るフォーサイスとエック、それも新作を見られるなんて、何気に豪華だなぁ、と。フォーサイスのギエムはとってもクール。エックのギエムはなんともハートウォーム。今回の舞台に関して言えば、エックを踊るギエムがとても好きでした。


幕開きは東バの『春の祭典』。初日の生贄は、日本初披露の宮本さんと、初役デビューの奈良さんでした。2人ともすごくよかった! 海外ツアーで踊った経験があるせいか、宮本さんのほうが落ち着いて踊っていたような気がします。奈良さんは、まだ少し緊張感が漂っていて、それが心地良くもありました。女性の生贄の初役は久々です。そのデビューの場に立ち会える幸運を、ヒシヒシと感じながら見ていました。「心地良い」と感じたのは、私の中の高揚感も手伝っていたのかもしれません。
宮本さんは、弱いだけじゃない、どこか「覚悟」のようなものが感じられる生贄でした。賛成の生贄は、弱い者が選ばれることになっています。でも、宮本さんはそれだけじゃない、強さがあった。そう感じさせたのは、あの表情です。澄んだ、とてもいい目をしてたんです。それは、いわゆる「強さ」ではなく、彼なら救えるかもしれないという「希望」でした。宮本さんを「美しい」と思ったのは初めてかもしれません。宮本さんは、群舞にいるときからとても印象的な人だったんですが、少しずつ大きな役を任されるにつれ、どんどんいい顔になっていったんです。そしてこの日、宮本さんは本当に美しい青年でした。
奈良さんは若く初々しい生贄。序盤、手の平越しにこちらを窺い見る目は、怯えているように不安げに揺れていました。彼女の大きな目がとても効果的。どちらも意識しているかどうかは別として、始めから運命を受け入れているかのような「覚悟」を漂わせた吉岡さんや井脇さんとは違うアプローチ。不安げな眼差しを投げかけていた彼女が、次第に自らの立場、運命を悟り、受け入れていくようでした。そのクレッシェンドの高まりが、2人のリフトで一旦の頂点を迎え、そして、群舞も巻き込んでクライマックスまで駆け抜けていきました。
初役の2人が舞台を引っ張っていく。でもそれは、群舞の支えがあるからこそで。そんないい舞台でした。

『パーフェクト・コンセプション』は久しぶり。初めて見た前回のときよりも、すごく楽しめた気がします。何と言っても吉岡さんと井脇さんが格好良すぎる! もう一度この2人で見ることはあるでしょうか、、、。2人とも初演キャストということもあり、踊りが身体の中に入っていました。でも、例えば初めて踊る役でも、どれだけ踊りを自分の中で掴んでいくか、そこに若手とベテランの違いが出るんじゃないかなと思いました。おそらく高橋さんも初役だと思うんですが、他の初役のダンサーたちに比べると、より掴んでいたと思うんです。
古典のヒロインだけでなく、ベジャールでもキリアンでもノイマイヤーでも、まるで事も無げにスッと踊りこなしてしまう美佳さんに毎度感動します。そして、コンテを踊る井脇さんの格好良さにも感動。2人とも空気は違うけど、流石の存在感です。初役とは思えないくらいハマっていた高橋さん。クラシック寄りの長瀬さんと好対照で面白かったです。
舞台の上手には、逆さに吊り下げられた樹木。同じく吊り下げられた照明は、終盤、ダンサーたちの頭上をゆっくりと旋回します。変化し続ける陰影が格好良い。ときどき挿入されるカラスの鳴き声は、一匹だと間の抜けた感じがしていたのに、大量のカラスが一斉に鳴くと恐怖に感じるのが面白かったです。
今回、予想以上に『パーフェクト・コンセプション』を楽しむことができました。この感覚のまま、同じくキリアンの『ステッピング・ストーンズ』を見てみたくなりました。

ベジャールの『春の祭典』は言うまでもなく、キリアンの『パーフェクト・コンセプション』も古くなっていないと感じました(多少の気分のズレは感じたとしても)。現代の振付家たちの作品は、これから先どんな道を辿るのだろうと考えてしまいました。
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2011年10月22日

東日本大震災復興支援チャリティ・ガラ<HOPE JAPAN>10月19日

シルヴィ・ギエム<HOPE JAPAN>ツアーのオープニングを飾るチャリティ・ガラへ行ってまいりました。異文化、異ジャンルが並ぶ公演はあまり経験がないんですが、その世界のトップクラスの方たちのパフォーマンスはどれも素晴らしく、チャリティ・ガラにふさわしい、とても素敵な公演でした。

ギエムは、この『HOPE JAPAN』と銘打った公演について、「日本の人々から長い間私がいただいてきたものの、一部をお返ししたいのです」語っていました。バレエを見始めてまだ日の浅い私にとっても、彼女は特別なダンサーでしたが、さらに特別な存在になったような気がします。舞台上ではクールな印象の彼女が、カーテンコールで見せる親愛に満ちた笑顔がいつも好きでした。私はまた、返しきれないほどのものを彼女から受け取ったような気分です。

オープニングは東京バレエ団による“ジャーク”。今年2月に初演された『ダンス・イン・ザ・ミラー』からオープニングの場面です。高岸さんが踊った役を松下さん。高岸さんより軽やかな印象でしたが、フレッシュでとてもよかったです。群舞に囲まれた松下さんと入れ替わって木村さんが登場するのかと思ったら、それはなく、再び松下さんが姿を現したところで暗転。まさかの木村さんお休み〜、、、。高岸さんや木村さんだけでなく、プリンシパル陣はお休みだったようです。
ガラのオープニングに相応しい元気な演目でしたが、東バファンでもバレエファンでもない方たちは楽しめたのだろうかと、余計なことが気になってしまいました。ここは一つ、華やかなクラシックの作品でもよかったんじゃないかな〜と思ったり。でも、ただ華やかなだけじゃ駄目な気がするんですよね。カブキの討ち入りの群舞もいいけど、男性しか出演できないし、『ラ・バヤ』の影の王国の群舞もいいんじゃないかと思ったんだけど、女性しか出演できないし。人員のことだけじゃなく、東バとベジャールの関係、ベジャールと日本の関係などいろいろ考えると、いい選択だったと思います。一番新しいレパートリーなので、ベテランから若手まで全員が初演に参加しているし、一つになるという意味でもいい選択だったと。ただ、ここだけ抜粋すると、本来の良さが出ないなぁとは思いました。

ジャークのカーテンコールはなく、そのままアンソニー・ダウエルによる朗読に。舞台には高田賢三さんデザインのイメージヴィジュアルが掲げられ、挨拶に続いて、ニネット・ド・ヴァロワによる詩2編が朗読されました。彼女が詩を書いていたとは知りませんでした。「子どもの言うには…」「満ち足りた幽霊」と題された詩はどちらも美しく、ここではないどこかから囁きかけるような優しさがありました。ダウエル氏の朗読も、優しくて落ち着きがあって、過剰でなさが逆に心揺さぶるものがありました。欲を言えば、あまりに短かったのが残念。とても素敵だったので。

ギエムの「ルナ」を見るのは初めて。よく写真で見る全身タイツではなく、同じく真っ白な衣裳でしたが、下はダボっとしたパンツをはいていました。舞台の奥から真っ直ぐにこちらを見つめて歩いてくるギエム。その揺るぎない眼差しに心打たれます。シャープなのに柔らか。音もなくしなやかで、強靭な踊り。月明かりの静寂の中で踊るような、静謐なソロ。月明かりのもとで踊っているようであり、彼女自身が月のようでもありました。シャープだと思い込んでいた三日月が、優しい光りを放って輪郭を温かく滲ませたような、今のギエムはそんな月。祈りのような踊りであり、彼女自身が希望のようでした。

「アルルの女」より、アルルの女の幻影にとらわれフレデリが、窓から身を投げるまでの短いソロです。幕が開くと、そこには既に狂気に足を踏み入れたフレデリがいました。こちらに背を向けて立っているだけなのに、何か只ならぬ空気を漂わせている。まずは何と言っても、久々に見るムッルに感激でした。ムッルはいわゆる狂気の人ではないと思うんですが、あの端正さの中に滲む狂気が好きだなぁ、と。狂気に陥るフレデリを演じながらも、踊りは非常に抑制が効いていて、それが返ってフレデリの内部の緊迫感を感じさせて、よかったです。

日本舞踊、横笛、太鼓のコラボレーション。「火の道」はもともと林さんと藤舎さんの協奏作品で、即興とのこと。そこに日本舞踊が加わり、さらに3人の即興で上演されました。上手に太鼓の林英哲さん、下手に横笛の藤舎名生さん、二つに割れた背景幕から舞踊家の花柳壽輔さんが登場します。格好良かったです〜。太鼓はもちろん迫力があって格好良かったんだけど、何と言っても藤舎さんの横笛が素晴らしかったです。音には様々な表情がありました。細く、太く、薄く、厚い。繊細で、力強く、横に広がるような音や、縦に切り裂くような音。ときにはこちらに水平に直進してくるような音。そして、太鼓の音が会場の空気を満遍なく振動させる。こういうコラボレーションもあるんだなぁ、と。
2人の奏者は板付き。しばらくして、二つに割れた幕間に花柳さんが姿を現すと、また空気が変わります。場の緊張感はさらに高まり、ズシンと重たくなったような気がしました。
ダウエル氏だけでなく、藤舎氏も花柳氏も、どうしておじ様たちはああも素敵なんでしょうか。

休憩を挟んで登場したのはルグリ。「ダンス組曲」から2曲が披露されました。スローな1曲と、軽快な1曲で、バランスもよく。やっぱりルグリの「ダンス組曲」、好きです〜♪ なんとも楽しげにチェロが奏でる音楽と戯れるルグリ。大袈裟でなく、ルグリが「ダンス組曲」を踊ると、音楽が人格(音格?)を持つような気がします。本当に対話をしているよう。しかもそれは、最初は少し手探りで。次第に両者の距離が近づいていき、やがて一つになるのを感じます。
2曲目のラスト、絶妙なタイミングで床に腰を下ろし、チェロ奏者をスパーンと見上げた瞬間、舞台上で光りが弾けるような、フワッとした衝撃に襲われました。

『奇跡の響演』の「愛が私に語りかけるもの」に出演されていた藤村実穂子さん。今回は馴染み深い日本の歌を披露してくれました。アカペラなので、1曲終わるごとに一呼吸置き、彼女のタイミングでスッと次の歌が始まります。それさえもどこか心地良く。日本語っていいなぁと思いながら聞き入りました。

静かな熱気に包まれるように始まった「ボレロ」。そこには、いつになくストンとピュアなギエムがいました。これまで、円卓の上で踊るギエムに、クール、勇壮、女神、様々な印象を受けてきました。必要以上に煽ることがなく、スタミナ切れもしないので最後まで踊りが乱れることがないギエムのメロディは、クールな印象が強く、揺るぎない強さが格好良さだったように思います。次第にそれは、神々しさや、勇壮さ、凛とした美しさに変わり、なんというか、「人間」に近づいてきたような気がするんです。同じ強さでも、優しさゆえの強さとか、繋がりがあってこその強さとか、少しずつ変容してきたように感じていました。そして、この日のギエムは「人間、ギエム」だったんです。もちろん、踊りとしての格好良さは今でも変わりません。ただ、より人間としての格好良さみたいなものが印象的だったんです。もし、「踊りとしての格好良さ」と「人としての格好良さ」に針が触れる機械があったとしたら(もちろんバレエはそんな単純なものではないけど)、この日、円卓の上に乗ったギエムの針は後者のほうに振れていました。
そうは言っても、相変わらず踊りもすごいです。スタミナが切れないので、最後まで踊りがブレない。ギエムの腕が空間を切り取り、暗闇に残像を描きます。まるで事も無げにスッと脚を上げたときの、心地良い興奮。計算されているかのような、踊る髪。
でも、私が初めて彼女を見たときから、一番変わらないのは「目」です。『ボレロ』のラスト、ひざまずいたギエムは、いつも少し高いところを見つめています。あの力強く、曇りのない、真っ直ぐな眼差し。あれだけはいつも変わらない、そしていつも私を魅了してやみません。


東日本大震災復興支援チャリティ・ガラ HOPE JAPAN
2011年10月19日(水)18:30 東京文化会館

【第1部】

「現代のためのミサ」より"ジャーク"(バレエ「ダンス・イン・ザ・ミラー」より)
音楽:ピエール・アンリ/振付:モーリス・ベジャール
東京バレエ団
※演奏は特別録音によるテープを使用します。

ニネット・ド・ヴァロワによる詩「満ち足りた幽霊」「子どもの言うには・・・」
朗読:アンソニー・ダウエル

「ルナ」
音楽:ヨハン・セバスチャン・バッハ/振付:モーリス・ベジャール
シルヴィ・ギエム
※演奏は特別録音によるテープを使用します。

「アルルの女」より
音楽:ジョルジュ・ビゼー/振付:ローラン・プティ
マッシモ・ムッル
※演奏は特別録音によるテープを使用します。

「火の道」
舞踊:花柳壽輔  横笛:藤舎名生  太鼓:林英哲

【第2部】

「ダンス組曲」より
音楽:ヨハン・セバスチャン・バッハ/振付:ジェローム・ロビンズ
マニュエル・ルグリ
チェロ:遠藤真理

「十五夜お月さん」「五木の子守唄」「シャボン玉」「赤とんぼ」「さくらさくら」
歌:藤村実穂子

「ボレロ」
音楽:モーリス・ラヴェル/振付:モーリス・ベジャール
シルヴィ・ギエム
松下裕次、宮本祐宜、長瀬直義、梅澤紘貴
東京バレエ団

指揮:アレクサンダー・イングラム
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
posted by uno at 22:29| Comment(2) | バレエ公演2011 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする