東京バレ団 モーリス・ベジャール振付『くるみ割り人形』
2006年12月7日(木)18:30 ゆうぽうと簡易保険ホール
2006年12月7日(木)18:30 ゆうぽうと簡易保険ホール
◆主な配役◆
<第1幕>
ビム:氷室友
母:高木綾
猫のフェリックス:松下裕次
M...(マリウス・プティパ、メフィスト、M...):中島周
妹のクロード、プチ・ファウスト:佐伯知香
光の天使:高岸直樹、平野玲
妖精:奈良春夏、田中結子
マジック・キューピ:飯田宗孝
<第2幕>
スペイン 闘牛士:高橋竜太、古川和則、鈴木淳矢
中国 バトン:高村順子
アラブ:中島周、西村真由美
ソ連:小出領子、大嶋正樹
フェリックスと仲間たち:松下裕次
パリ:井脇幸江、木村和夫
グラン・パ・ド・ドゥ:吉岡美佳、後藤晴雄
※男装の麗人(タキシードの女性):田中結子
※プチ・メフィスト:高橋竜太
ビデオ編集協力:GPA
東京バレエ団の『くるみ割り人形』2日目。大感動でした。
初役の皆さんもとても好かったし、M...の中島さんも2日目の方が全然余裕があって安心して見ていられました。こちらも2回目で慣れたし、向こうも一度舞台に乗せているのでやはり初日とは完成度が違うだろうし、私が初日に気になったバタバタ感もまったく感じませんでした。本当に、1回の本番がこれほど大事とはね〜。当日の雑感に書いたんですが、そういう意味では初役を2日目に持ってくるのは良い考えですよね。
プリンシパルやソリストやコール・ド、それらの違いというのは、世界を創る上手さ、空気を変える存在感だということを深く感じました。初役の皆さんも本当に好かったんですよ。フレッシュで、一生懸命だし、そこから生まれるパワーも計り知れないものがある。しかも私は東バファンなので、初役のダンサーへの応援の気持ちというのは大きくて、彼らが期待以上に良い舞台を見せてくれると妙に感動してしまったりもします(偉そうですみません…)。でもやっぱり、踊りではなくその存在の安定感や輝きが違うと感じさせる。自分の世界を創るのが上手いんですよね。
と言いつつ、この日は初役の皆さんがとっても素晴らしくて、舞台の完成度も増していて、初日より感情移入して見てしまいました。まんまとベジャールの世界に泣かされた。一度捕まってしまうともう逃れられなくて、舞台で繰り広げらる物語に心地よく心を揺さぶられてきました。母と子のパ・ド・ドゥで涙してからは、もう雪が降っただけで滂沱。あれだけ泣くと、もうなんか気持ち良くなっちゃうんですよね。
母役の高木綾さんが素晴らしかったです。
吉岡さんの、現実感のない母とはまったくの別物。高木さんは本当にお母さんのよう。暖かくて優しくて、涙が出ました。あの母性はどこから来るんでしょうか?この作品における母としては、少年の中で美しく神秘的に巨大化した、吉岡さんの母が正解なのかもしれないけど、私は高木さんの母に心を掴まれてしまいました。高木さんはもともと好きなダンサーなんですけど、断然大好きなダンサーになりました。細かい手先や足先なんかは、吉岡さんのほうがベジャールっぽいと感じさせたんですけどね。1幕終盤のビムとのパ・ド・ドゥでは、肌色のユニタードが綺麗。吉岡さんはちょっと痩せ過ぎなのが気になっちゃって、、。逆に2幕の白いドレスは吉岡さんの圧勝。って、勝負じゃないんですけど…。
氷室友さんのビムもとても好かった。彼のビムは本当に子どものようで、とても愛しい存在。守ってあげたくなるビムでした。全力投球で演じているのが全身から伝わってきて、そのひた向きさとビムの純真さがシンクロするようで、見ていて切ない気持ちにさせられました。そんな氷室さんと高木さんのパ・ド・ドゥは、母と子の健全なパ・ド・ドゥで、真正面からこちらに飛び込んできてしっかり心を掴まれてしまった。あんなにストレートに感動させてくれるとは。初日の吉岡&高橋ペアのパ・ド・ドゥもすごく好かったんだけど、全然別のものでしたね〜。どちらも本当に好かった。
猫のフェリックスの松下裕次さんも素敵でした〜。彼はなかなかのテクニックの持ち主で、軽やかな踊りとチャーミングな雰囲気がとても好きなんですが、加えて爽やかなところが素敵なんですよね〜。これ見よがしな感じがしない。大役の抜擢も、気負うことなく軽やかに演じてくれる。先が楽しみです。
初日、平野さんが眩しかったレッスン風景のシーンでは、同じ場所(最前列の上手寄り)に大嶋正樹さん。こちらもまた別格に輝いておりました♪ 最初に中央に出てきてソロを踊るのは、2日目も長谷川智佳子さん。そこへ加わる二人は大嶋さんと古川和則さんでした。初日の感想にも書きましたが、何気ないパートの安定感が高い。
「ファウストごっこ」のシーン。この日のプチ・メフィスト(赤い衣装の幼少時のベジャール)高橋竜太さんは、かなりの存在感。なんていうか、余裕があって楽しんで踊っている感じでした。表情も豊か。
「ファウストごっこ」からボーイスカウト、母の登場まで、慌しく感じた初日に対して、2日目はバタバタ感は無し。
2日目の光の天使は高岸&平野ペア。高岸さんは相変わらず楽しげ。平野さんも生き生きと軽やかに踊ってましたね〜。この2人だと身長差があるので、大きい変態と小さい変態(失礼…)のでこぼこコンビで可愛かった♪ 平野さんはカーテンコールでも頭を振り振り、楽しげでした。妖精は奈良春夏&田中結子ペア。奈良さんは弾けてましたね〜。思い切りの良い感じが彼女の魅力ですよね。現代の感覚があるというか、新しい空気を持ったダンサーだなという感じがします。
私的に2日目は感情移入して見ていて、ビムがマリア像を登る辺りからウルウルしてたんですが、高木さんの母が登場してからは、もう涙が止まりませんでした。痩せすぎない、柔らかくて優しいラインの高木さんがとっても綺麗でね〜。うつむき加減の瞳は慈愛に満ちて、そこはかとなく優しい存在感。そそて氷室さんのビムは、本当に子どものように純粋で無邪気で切ないんです。この日はビムよりも、母に感情移入して見ていたかも。母を慕う少年の気持ちではなく、母を失くした少年の心を想う母親の気持ちが、切なく伝わってきました。ビムと、そして舞台全体を包み込む高木さんの母の大きな愛に、心が洗われるような清々しい感動をもらいました。
この日のスペインは、高橋竜太&古川和則&鈴木淳矢。鈴木さんも好かったんだけど、やっぱり高橋さんと古川さんは存在感が違う。でも、目立たないけど鈴木さんも綺麗な踊りだったなと。
中国の高村順子さんがとっても好かったです。初日の佐伯さんも可愛らしくて踊りも申し分なかったんだけど、高村さんの中国を見たら吹っ飛びました。自分の世界を創り出す上手さは歴然の差。登場した途端に舞台の空気が、彼女の中国の踊りの世界にガラッと変わるのを感じました。バトン捌きも見事でしたね〜。短いシーンでしたが、手放しでブラボーでした。
ロシアの大嶋さんはこの日も好調。初日のグラン・パ・ド・ドゥでも感じたんですが、小出さんに良い押し出しの強さが身に付いたようで、見ていて頼もしかったです。いつも溌剌として軽やかだけど、なんか力強さが漲っていたな。大嶋さんと小出さんのペアも、悪くないですね。
「フェリックスと仲間たち」は、猫のフェリックスの長いソロ。松下さんの踊りはいいですね〜。踊りとしてどうのという前に、良い意味で肩の力の抜けた感じが好きなんです。驕りや気負いがなく、今できるすべてに真摯に取り組む真面目さを感じさせる。ニュートラルで、貪欲で、ストイック。って、ぜんぜん上手くまとめられないんですが、そんな感じです。松下さんの踊りを見つめる会場の雰囲気も印象的でした。期待をこめた緊張感と私は感じたんですけど、ハラハラしてる人もいたのかしら?踊り終わるまでジ〜ッと待って、ホッとして拍手みたいな、結構暖かい空気を感じました。
楽しみにしていた井脇さんと木村さんのパリ。
最高でした!相手が木村さんだと、井脇さんの可愛らしさがUP。木村さんのパリは名演でしたね〜。少しアンニュイでウェットな空気が、パリによく合っていました。何と言っても、手が美しくてね〜♪ 多分、木村さんは手のひらが大きいんですよ。伸ばした腕も然ることながら、少し折った手首がセクシーで、セクシーで。ウットリでした。井脇さんと木村さんで、ガラッと舞台の空気を変えてくれました。流石の一言。それにしても脇キャストを生き生きと楽しそうに踊る人ですね〜♪
慣れない社交ダンスのステップは難しいのか、2人が向き合って組むところは少しぎこちなかったです。腰が引けてるというか、何となく収まりの悪い感じでした。
吉岡さんと後藤さんのグラン・パ・ド・ドゥ。吉岡さんは絶好調ではなかったようです。破綻しないようコントロールして踏ん張っている感じは、ちょっと格好良かったかも。決して力を抜いているということではなくて、好調ではない中で最大限に綺麗に見せるために頑張っている感じがしたんですよね。当たり前っちゃあ当たり前なのかもしれないけど、、、。キラキラと輝く存在感は相変わらずで、素晴らしいなと想いました。後藤さんの方は、結構調子が良かったように思います。サポートやリフトはちょっとヒヤヒヤしたけど、ヴァリエーションはとても好かった。ときどき重たい感じのする後藤さんですが、それも感じなかったし、細かい足捌きも綺麗でした。
ベジャール版のグラン・パ・ド・ドゥには、タキシードの男性群舞6人が付きます。男性プリンシパルには冷ややかな目線、女性プリンシパルには賞賛の嵐を贈る、ちょっと笑いの起こる演出。男性のヴァリエーションの間も舞台にいて、「お手並み拝見しようじゃないの」みたいな冷たい空気。女性が登場するとみんなで駆け寄って「麗しい〜」「素晴らしい〜」の賞賛でお出迎え。2日目のタキシード部隊で面白かったのが、野辺誠治さんです。女性のヴァリエーション中もやっぱり舞台にいて、みんな身悶えしながらウットリと踊りを見ているんですが、野辺さんは遂に堪えきれずに2本の指を立てて誓いのマイム。それを隣の宮本さんが制してもまだ我慢ができず、左手の薬指を差して「結婚して!」アピール。あんなに乗りの良い人だったとは。最高でした。



