2010年05月20日

東京バレエ団『オネーギン』5月15日

神奈川でもう1回公演がありますが、その前に少しでも感想を書いておこうかな、と。東京バレエ団『オネーギン』2日目の公演は、19年越しの悲願となった友佳理さんのタチヤーナということもあり、カーテンコールはスタンディングオベーションで迎えられました。もちろん、友佳理さんだけでなく、この日の舞台を作り上げたすべての人たちに向けられた拍手だったと思います。私としても、友佳理さんと、そして何よりオネーギンの木村さんには思い入れがあるので、特別な舞台になったことは言うまでもありません。思い出すとちょっと胸が熱くなる。数日後には神奈川県民ホールでもう一度2人の『オネーギン』が見られますが、この日の舞台は忘れられないものになるだろうと思います。

東京バレエ団『オネーギン』全3幕
2010年5月15日(土)18:00 東京文化会館

ジョン・クランコによる全3幕のバレエ
アレクサンドル・プーシキンの韻文小説に基づく

振付:ジョン・クランコ
音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
編曲:クルト=ハインツ・シュトルツェ
装置・衣裳:ユルゲン・ローゼ
振付指導:リード・アンダーソン、ジェーン・ボーン
コピーライト:ディータ・グラーフェ
世界初演:1965年4月13日、シュツットガルト
改訂版初演:1967年10月27日、シュツットガルト

◆主な配役◆
オネーギン:木村和夫
レンスキー:井上良太
ラーリナ夫人:矢島まい
タチヤーナ:斎藤友佳理
オリガ:高村順子
乳母:坂井直子
グレーミン公爵:平野玲

親類、田舎の人々、サンクトペテルブルクの貴族たち:
チャイコフスキー記念東京バレエ団

指揮:ジェームズ・タグル
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団


緞帳が上がり、「E.O.」の幕の向こうに友佳理さんのタチヤーナが見えた瞬間、ついに始まるかと思うと身震いするような感覚に襲われました。まるで呼吸をするように自然に物語に溶け込み、その中で彼女ならではの存在感を際立たせる友佳理さん。この日もタチヤーナそのものでした。いや、これが正解のタチヤーナかどうかということではなく、友佳理さんのタチヤーナそのもの(こういう言い方が正しいのなら)。彼女が本当に愛情を込めてこの役を生きているのが感じられる、そんなタチヤーナでした。

初日の吉岡さんよりも「夢見がち度」は控えめ。吉岡さんが読んでいるのは恋愛小説だったかもしれないけど、友佳理さんが読んでいたのはもう少し小難しい本かもしれない。ええ、難しい本ではなく、小難しい本というくらい。周りの少女たちとは少し違う雰囲気を持った、知的で思慮深い少女。本を読みながらも、時おり視線を上げて思いをめぐらせる、自分の世界を持っている少女でした。知的さとトリッキーさが調度良い具合だったかも。まったく空気が読めないわけではないから、なおさらオネーギンをイライラさせるのかもしれません。

印象的だったのは、オリガと少女たちの踊りが始まる場面で、後ろのベンチに移動したときの友佳理さんです。友佳理さんはすぐには腰をかけず、こちらに背を向けて木立を見上げていたんです。本を胸に抱き、ゆっくりと周囲を見渡していたタチヤーナは、空や木や大地をその身に感じ、胸いっぱいにロシアの空気を吸い込んでいるようでした。それはまるで、友佳理さん自身が、この『オネーギン』の舞台の空気を胸いっぱいに満たしている姿に重なるようで、胸に迫るものがありました。ベンチに腰を下ろしてもすぐに本を開かず、何か思いに耽っている様子のタチヤーナ。一体、タチヤーナの中でどんな素敵な物語が展開しているんだろう、と。あのとき、友佳理さんが抱きしめていた本は、『オネーギン』だったのかもしれない…、なんて考えてしまいました。

オリガの高村さんが、またしても驚異的な可愛さ! 本当に不思議な人だ〜。無邪気で、ひたすらな明るさが心優しいというか。無邪気さゆえに人を傷つけ、悲劇を招いてしまうという陰すらも感じさせないほどの可愛さ。だからこそ、なおさら彼女に降りかかった運命が痛々しく切ない、、、。
そして、これまた純朴な田舎の青年、井上さんのレンスキーとピッタリでした。やっぱりちょっと、高村さんのオリガのほうが少しだけ年上の恋人には見えてしまいましたが、それはそれで微笑ましい。井上さんの弟的なキャラが、なんかいいなぁ、と。長瀬さんと違って陰がないので、ひたすら純朴な彼がオネーギンにからかわれて、自分でも理解しきれないままに運命を狂わせていく様が切なかったです。

井上さんの踊りはとっても丁寧で柔らか。踊りも気持ち良いし、その心意気も気持ちが良い。なんとなく、以前に比べて東バの男性陣の踊りは、丁寧できめ細やかになったような気がします。着地音もみんな気を遣っているのがわかる。そして、意外とサポートができるという気もする。今回の井上さんも、よく考えたらまともなパ・ド・ドゥはほとんど披露したことがないんですよね。『シルヴィア』で山羊を踊ったくらいじゃないでしょうか。おそらく、高村さんの助けも大きかったとは思います。フワッとリフトするのが上手だなぁと感じたのは、フワッとリフトされる高村さんの上手さもあるんじゃないか、と。表情など、演技の部分ではまだ少し固いかな〜と思う部分もあったんですが(前日の長瀬さんが濃いから〜笑)、とてもいいレンスキーだったと思います。


そして木村さんのオネーギン。う〜ん、なんて書いていいのかわからない…。まず、素朴な美しい色合いの場面に、不自然なくらい黒い衣裳で登場するオネーギン。あの黒の意味が一番際立っていたのは木村さんだったと思います。異世界から来た客人という、風景に交わらない違和感。全身真っ黒な衣裳で背中から登場する木村さんのオネーギンが、その後姿だけで異様な存在感を放っているのが印象的でした。

上から人を見下すような、傲慢な態度が隠し切れない高岸さんや、端っから退屈してやる気のない風情の後藤さんと違い、表向きは体裁を繕っていて、控えめな印象。タチヤーナの読んでいる本を見たときも、「プッ」と小馬鹿にしたような態度ではなく、「はいはい、なるほど、そうくるよね」という程度。
でも、高岸さんのように嫌味な態度を表に出せるっていうのは、ある意味、まだ自分に自信があると思うんですよね。彼にとっては退屈に映る田舎の人々を、ストレートに退屈だと思っている。木村さんのオネーギンは、もうちょっと屈折しているような気がします。彼にとって、人生に飽き飽きしているというのは仮面であって、それは弱い自分を隠すための仮面なのではないか、と。彼が本当にウンザリして絶望しているのは、そんな自分自身なのではないか…。彼は弱い人間であるがゆえに、決してそれを人に悟られてはならない。何より自分自身をも誤魔化している彼は、完璧な仮面をかぶり、冴え冴えと冷たい、、、。そう思えてなりませんでした。
1幕1場、最初の2人のパ・ド・ドゥの最後に、タチヤーナを顔をスッと指で上げるところで、高岸さんは自分でこちらを向かせておいて、既に心と目は明後日の方向をむいていました。木村さんは友佳理さんのタチヤーナの顔を覗き込んでから、スッと顔を逸らせていた。彼はあのとき、たった一度でもタチヤーナを瞳をまともに見ているんですよね。もしかした、タチヤーナの瞳に何か見透かされるのではないかと、無意識のうちに感じたのではないでしょうか。
なーんて、なんでもかんでも木村さんを「心に穴の空いた人」扱いするのは、私の悪い癖ですかね〜(苦笑)。

それにしても美しかった〜。表向きは礼節を守りながらも、周りの人たちにも出来事にも、関心も興味もない。あからさまに悪い人ではないけど、立ち入る隙のない佇まいは冴え冴えと冷たい。スラリとした長身に黒い衣裳が美しく、無駄のないエレガントな振る舞いと、どことなく陰のあるニヒルな様子が都会的でもあり、ちょっと頭でっかちな夢見る少女が一瞬で恋するのに説得力があります。
そして、踊りも綺麗なんですよー♪ 調子は万全だった様子。美しい踊りに憂いを乗せた最初のソロも素晴らしかったです。

ベッドに横になっても寝付けないタチヤーナ。枕をギュッギュッと丸めて、落ち着かない様子でそれを抱きしめる様子が上手い。鏡のパ・ド・ドゥは、すべてが完璧にスムーズとはいかなかったけど、全体の仕上がりはとてもよかったと思います。タチヤーナの夢の中のオネーギンは、甘く優しい、しかも少女の夢に相応しい、少しだけ妖しい魅力のある男性です。タチヤーナにそっと耳打ちする木村さんが怪しい(笑)。

それにしても、やはり友佳理さんは上手いと思ってしまった。複雑な振付やアクロバティックなリフトの中でもドラマチックさを失わない。それどころか、後半になるとますます踊りに、というか身体中に感情が溢れてくる。それは、ちょっとした首の角度だったり腕の表情だったりするんですが、それが計算されたものなのか、それとも既に無意識なのか、考えるのも馬鹿らしくなるくらいどんどん引き込まれてしまいます。ラスト、万感の思いでオネーギンの足元に崩れ落ちるタチヤーナ。ゆっくりと後退りし、鏡の向こうへ姿を消すオネーギン。あんな満面の笑顔で立ち去るとは〜(♪)。はぁ〜、素敵でした。

目覚めると、一気に手紙を書き上げるタチヤーナ。オネーギンに渡してくれるように乳母にお願いすると、「でも、お嬢様、、」と言いたげな乳母を、「いいから。ね、いいから、、。」と押し戻す友佳理さんのタチヤーナが可愛い。ああいう、ちょっとした仕種の少女らしさが本当に上手いなと思いました。

続く〜(かも…)。
posted by uno at 00:48| Comment(0) | バレエ公演2010 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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