『オネーギン』の2日目へ行ってまいりました。もともとこの日は行くつもりがなくて、初日と最終日だけチケットを取っていたんですが、『眠り』でカラボスを演じたジェイソン・レイリーがとても格好良かったので、これは是非オネーギンも見てみたいと思い、急いでチケットを追加して見てまいりました。スー・ジン・カンのタチヤーナも見たかったし。
無理して見に行ってよかった!!今日の2人も素晴らしかったです〜。ちょっと(かなり?)キワモノのカラボスを演じたジェイソン・レイリーですが、正統派の役どころもすごく好かったです(正確にはオネーギンは正統派ではないのかな?)。これならきっと、貸切公演のデジレ王子も素敵だっただろうな、と。
レイリーのオネーギンは、とても大人な印象。洗練されているんだけど、どこかニヒルな雰囲気もあって、これは本ばかり読んでいるような、恋に恋する女の子は好きになっちゃうだろうな〜という。ニヒルと言っても暗いニヒルではなくて、どちらかというと明るいニヒルなんです。イェリネクのオネーギンはもうちょっとナイーブで、そんな少女を相手にする余裕がない感じ(褒めてます)。NBSニュースのイェリネクのインタビューによると、クランコ版のオネーギンの年齢設定は35歳くらい、タチヤーナは17歳くらいだそうです。そうなんですよ、17歳から見たら35歳は大人の男かもしれないけど、30歳そこそこの人間なんて、思ったほど余裕なんかないと思うんですよね。いや、自分もオネーギンに近い年代なので言うんですが、30代前半なんてまだまだ子どもです(少なくとも私は)。だけど、レイリーのオネーギンは余裕があって、格好良いんです。昨日のイェリネクはタチヤーナに苛立つ以前に、既に何かやり場のない思いに苛まれていて、同時に自分自身に苛立っていたのではないかと書いたんですが、今日のレイリーはタチヤーナの振る舞いに苛立っているように見えました。もちろん、その背景には人生に対するもどかしさがあったんだと思いますが。なので、2幕のタチヤーナの誕生日で見せるオネーギンの苛立ちは、それほど神経質ではありません。「これほど言っているのにどうしてわからないんだ」という、しごく当然な苛立ち。トランプをもてあそびながら、その苛立ちを極力抑えようとする姿はむしろ大人な態度で立派と言いますか、レイリーは比較的、器の大きさを感じさせるオネーギンでした。イェリネクのオネーギンが器の小さい男だと言っているわけではなくて、彼の場合は、今は器が小さくなってしまっている男、そんな感じでした。イェリネクが両方の手の平でバンッと大きな音を立てて机を叩いたのに対して、レイリーは軽く握った拳でタンッと抑え気味に机を叩きました。「バンッ」と「タンッ」はだいぶ印象が違いました。でも、静かな怒りだからこそ、なおさら怖かった。感情的に怒ってくれたほうが、まだ取り入る隙があるような気がするんですが、あれほど冷たく静かに憤りを示されると、もうパニックというか、完全にどうしていいかわからなくなってしまいます…。とっさに両手で耳を塞ぎ、今にも泣き出しそうな顔で身をすくめたスー・ジン・カンのタチヤーナがもう可哀相で…。
3幕のレイリーがまた格好良い!!グレーミン公爵もそうですが、老け役の扮装が上手いですよね。若いダンサーが無理して老け役やってるな〜という感じがしない。グレーミン公爵にしろオネーギンにしろ、ちゃんと中年で、しかもとっても素敵。すっかり憔悴しきった様子だったイェリネクに比べると、レイリーのオネーギンはもう少し元気。この年月の間に、それなりに恋もしたし、さまざまなことがあったけれども、結局心を満たすものを見つけることができなかったという虚無感が漂っていました。イェリネクは頬もこけ、そのせいで目が異様な光を帯びていて、目を見開いて正面を見据える表情には絶望が滲んでいました。
グレーミンにエスコートされて美しく踊るタチヤーナ。オネーギンは彼女がこちらを向きそうになると背を向けて顔を隠すわけですが、イェリネクは少しオドオドとして、今のこんな惨めな自分を見られたくないという雰囲気が感じられたんですが、レイリーは、自分なんかが姿を表すわけにはいかないという、ある意味分別のある態度にも感じられました。
そして、スー・ジン・カンのタチヤーナが素晴らしかったです。怪我をしたエレーナ・テンチコワの代役として踊ってくれたわけで、手放しで喜ぶのは不謹慎かもしれないんですが、彼女のタチヤーナを見ることができて本当によかったと思います。
アマトリアンのタチヤーナは、夢見がちなホンワカした少女。印象としては13・4歳の、恋に恋する以前の幼い愛らしさがありましたが、スー・ジン・カンは正に17・8歳の恋に恋する年頃に感じられました。夢見がちというよりは、本が好きで、空想は空想とわかっていて耽っている感じ。確かに夢見がちな少女ではあるけれど、とても知的で思慮深い感じがしました。どちらの手紙がイラつくだろうかと考えると、おそらくスー・ジン・カンのタチヤーナのほうではないかと思います(褒めてます)。アマトリアンのタチヤーナだと、幼い恋文を想像させるんですが、スー・ジン・カンの場合、17・8歳なのでそれなりに成熟している部分もあるし、それでいて本ばかり読んでいる頭でっかちな恋文を想像させます。
スー・ジン・カンは、身体のキープ力というか、コントロール力がすごいなと思いました。鏡のパ・ド・ドゥで、レイリーにすごい勢いで振り回されてもビクともしない。グワンと振り回されて、フワッと着地。レイリーも非常にパワフルなんだけど、しなやかで、ここの男性陣の中では着地音が静かなほうかもしれません。この鏡のパ・ド・ドゥでも、終幕の手紙のパ・ド・ドゥでも、踊り・演技ともに、今日の2人のほうがパワーバランスが良かったと思います。アマトリアンのタチヤーナもとても好かったんだけど、スー・ジン・カンを見てしまうと、やはり少しソフトな感じがしてしまいます。手紙のパ・ド・ドゥのラスト、イェリネクのオネーギンが部屋を出て行ってしまい、アマトリアンのタチヤーナが舞台に一人になると、場のパワーみたいなものがフッと和らいでしまう気がしたんですが、スー・ジン・カンのタチヤーナが舞台に一人で残ると、2−1=1ではない強烈な存在感で舞台を支配しているのを感じました。いや、アマトリアンのタチヤーナもすごく好かったんですよ〜。でも、なんていうか、スー・ジン・カンは流石という感じでした。そしてやっぱり、2人のパワーバランスが拮抗しているというのは大事だなと思いました。
クランコの年齢設定では、3幕のタチヤーナは30代半ばだそうです。垢抜けない夢見がちな少女から、輝くように美しい女性へと変貌してみせたアマトリアンでしたが、30代半ばと呼ぶには少し若い気がしました。まあ、実際に若いんだから、そこをスー・ジン・カンと比べたら可哀相かもしれないけど、スー・ジン・カンは美しく洗練された大人の女性へと成長を遂げたタチヤーナで、そこには夢見る少女の欠片は残ってはいないようでした。
昨日はオネーギンに感情移入した私でしたが、今日は終幕のタチヤーナに持っていかれた感じでした。最後の最後、足元にしがみついたオネーギンの頭を愛しげに撫でようとして思いとどまる、あの場面がやはりたまらないです。オネーギンが出ていった扉まで駆け寄り、ヨロヨロと舞台中央に戻ってきたタチヤーナの、慟哭する姿を残して幕が下ります。感情が堰を切ったように溢れ出し、大きく口を歪めて叫ぶように泣くスー・ジン・カンのタチヤーナ。きっとあれは、タチヤーナが誰にも見せたことがない、これから先も誰にも見せることのない姿なんだろうなと思いました。
レンスキーのマリイン・ラドメイカーは初見。噂から想像していた以上にキラッキラでした。もう本当に、キラッキラ。踊りは少し安定感に欠けるところもあったけど、時間の問題かな、と。ブロンドのキラキラ王子にあまり入れ込まない私ですが、ラドメイカーはちょっぴり暗い感じがしなくもないので、気になる存在ではあります。プライドが高そうなレンスキーで、それが自分の足を引っ張っちゃてる感じが好かったです。
決闘の直前、ラドメイカーのレンスキーはオリガに熱いキスをして、一瞬の間の後、彼女を突き放します。その一瞬の間が切なかった。そして、タチヤーナの手を取り頭を垂れた姿には、昨日のフォーゲルの感謝とは違う、謝罪の念を感じました。
やっぱり、初日のフォーゲルがすごく好かったな〜と思ってしまいました。決してラドメイカーが悪かったわけではないんですが。細部の安定感は言うまでもなく、適度な溜めの気持ち良さ。その適度な溜めを生み出す余裕。感情が踊りに乗っていて、さらにそれが音楽に乗っているんです。だから、レンスキーの感情がスッ、スッ、スッと踊りとともに入ってくる。なんとも気持ちの良い踊りでした。
昨日のカーテンコールでイェリネクは、アマトリアンを抱き寄せるようにして頬にキスをしていました。とっても紳士で優しげなイェリネクが印象的。今日のスー・ジン・カンとレイリーは、讃え合うように2人でギュッと抱擁を交わしていました。抱き合ったレイリーの肩をポンポンポンと叩くスー・ジン・カンが印象的。そんな2人の姿に、後ろのダンサーたちからも拍手が起こったんです。舞台上のダンサーが指揮者やオケに対して拍手をするのはあるけど、主演の2人(しかもゲストではない)に対して拍手するのって珍しいような気がして、印象的な場面でした。
明日は『オネーギン』の最終日です。寂しいなぁ、もう終わっちゃうのね、、、。2日目のキャストも乗せておきます〜。
シュツットガルト・バレエ団『オネーギン』
2008年11月29日(土)15:00 東京文化会館
振付:ジョン・クランコ
音楽:ピョートル・I・チャイコフスキー
編曲:クルト=ハインツ・シュトルツェ
装置・衣裳:ユルゲン・ローゼ
オネーギン:ジェイソン・レイリー
レンスキー:マリイン・ラドメイカー
ラーリナ夫人:メリンダ・ウィサム
タチヤーナ:スー・ジン・カン
オリガ:アンナ・オサチェンコ
乳母:ルドミラ・ボガード
グレーミン公爵:ダミアーノ・ペテネッラ
指揮:ジェームズ・タグル
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
2008年11月30日
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明日も行きます、バランキーがどう踊るか、ジェイソンのグレーミンはどうか楽しみです。
マリインは本当にキラッキラでしたね。キラキラでなくキラッキラ。私も金髪君にはあまり惹かれないのだけど、彼は何か気になりましたよ(笑)unoさんとツボが似てる?
スー・ジン・カンのタチアナは圧巻でした…素晴らしかった。観られて本当に良かったです(号泣)
結局、『明るい小川』は授業のためにあきらめ、ナチョの『ロミオとジュリエット』はベルリン・フィルとかぶって見られませんでした〜。せっかく関西に来たのに見逃している私って(苦笑)…びわ湖ホールは危機に瀕しているので、できることなら行っておきたいんですけどねー。『小川』、客の入りがあまりよくなかったみたいなので余計に残念です。これにこりず、意欲的な公演を続けてくれるといいんですけどね。
ジェイソン・レイリーのオネーギン、素晴らしかったです〜。何となく外見だけでオネーギンのイメージではないような気がしていたんですが、ぜんぜんそんなことはなくて、本当に素晴らしいオネーギンでした。今日(30日)のグレーミンも格好良かったし、いいダンサーですね♪ スー・ジン・カンのタチヤーナは良いだろうとは思っていたけど、予想以上といいますか、本当に圧倒されてしまいました。2日目も無理して見に行って本当によかったです。
そうなんです(笑)、キラキラじゃなくて、キラッキラでしたよね〜。さとみっちさんもラドメイカーくん気になられたんですね!嬉しいです〜。似てますね、ツボ(♪)。何かもっと陰のある役とか、踊ってみてほしいです。
体調は大丈夫でしょうか?体調の悪いときに観劇が続くとキツイですよね、、、。お大事になさってくださいねー。
こんばんは!
フェスティバルホールの『オネーギン』に行かれるんですね。うぅぅ、、、私ももう一度イリ・イェリネクのオネーギンが見たいです〜。シュツットガルト・バレエの東京公演が終わってしまって、軽〜く抜け殻状態です…。『眠り』もとてもよかったので、また持ってきてくれるといいですよね〜。私もまたカラボスが見たい♪
ボリショイの『明るい小川』とナチョは都合が合わなかったとのこと。東京の公演は重なったとしても2・3日公演があるのでなんとか見に行けることもあるんですが、関西公演は招聘元同士でうまいことずらしてくれると有り難いのになぁと思ってしまいました。
びわ湖の『小川』、客入りはあまりよくなかったんですね…。本当に、びわ湖は面白い演目を上演してくれるので、これからも頑張ってほしいです。
『オネーギン』、楽しんでいらして下さいねー♪