『オネーギン』の初日に行ってまいりました。すーごくよかったですー!!念願だったイリ・イェリネクのオネーギンが素晴らしくて、嬉しかったです。大袈裟な演技ではなく、あくまでナチュラル。あくびを噛み殺す仕草とかも、下手をすると見逃すくらい控えめなんです。心底腐った人間じゃないんですよね。元来、礼節はわきまえた人間のはずで、だから明らさまに無礼な態度はとらない。ただ、今はそれを少し守れない自分がいるというか。彼はタチヤーナに苛立ったわけではなく、既に苛立っていたんだと思います。それを爆発させてしまったのはタチヤーナだったけど、、、。既に人生に飽きていたオネーギンは、もうずっと満たされない思いを抱いていて、いつも何かに苛立っていたのではないでしょうか。でも、そんな彼が一番苛立っていたのは、自分に対してだったのではないかと思いました。遂に耐え切れず、机をバンッと叩いて憤りを露わにしたとき、タチヤーナに苛立ったのと同時に、そんな自分に対してもどうしようもなく苛立ったのではないかしら、、、。
イェリネクの丁寧で緻密な、それでいて自然なオネーギンの描写は、ジワジワと迫ってきて、気が付くとすっかりオネーギンにシンクロしている自分がいました。共感や同情とは違う、共鳴に近い感覚。私自身は女性なんですが、今日の舞台ではタチヤーナではなく、オネーギンに共鳴する部分が大きかったです。自分が駄目な人間になってしまっているときってないですか?それを自分でもわかっているのに、どうにもならない。その、どうにもならないことに、どうにもならない自分自身に苛立つ…。2幕でのオネーギンの苛立ちが、チリチリと迫ってきて、苦しかったです。もちろん、表面的にはオネーギンの苛立ちはタチヤーナに向けられているんだけど、それはもしかしたら本人も気付かないうちに自分自身にも向けられていたのではないかと、そんなふうに思えてなりませんでした。
そして、3幕でのイェリネクも素晴らしかったです。若かったときのオネーギンは人生に飽きていたけど、今の彼は人生に疲れ、絶望している…。すっかり覇気を無くし、疲れきったオネーギンの姿は、レンスキーを死なせてしまったことで彼がずっと自分を責め続けて生きてきたことを窺わせました。そんな様子からも、やはりオネーギンが心底腐った人間じゃないと思えるんです。例えそれが自業自得だったとしても、彼が苦しんできたことには間違いがない。オネーギンの愛を拒否したことでタチヤーナも苦しむかもしれないけど、でも彼女には優しい夫がいます。彼女の心は時間とともに癒えていくと思うんです。でも、じゃあオネーギンは?これから先、彼の心を埋めてくれるものが現れるでしょうか…。
ともすると控えめで、ナチュラルなイェリネクのオネーギンは、「オネーギンを演じている」という感じではなく、「オネーギンがそこにいる」と思わせるものがありました。それはすべてにおいて。場面が進むにつれ、一歩踏み出すその足さえも、オネーギンならこう歩くだろうと思わずにはいられませんでした。いや、見ているときは、むしろそんなことは考えないんです。“オネーギン”その人を見ている自分がいる。ただそれだけ。
アマトリアンのタチヤーナもすごく好かったです。『眠り』で感じた不調は、今日は一切ありませんでした。とにかく、伸びやかで柔らかな身体が綺麗。リフトされたときの空中での伸びやかなフォルムは、本当に美しかったです。イェリネクのリフトは、あれだけ振り回しているのに、振り回している感じがしないんです。アクロバティックでスピーディーな振付なのに、振り回しているとは感じさせず、非常に滑らかで美しいリフトとサポート。それを受けるアマトリアンの身体がまた綺麗でね〜。
アマトリアンは、とっても内気で夢見がちな少女にピッタリ。主体性がないようでいて、その半面非常に頑固というか、そんな少女の雰囲気がすごくよく出ていました。本の虫のような、大人しいタチヤーナは、オネーギンにとっては垢抜けない田舎娘に映ったかもしれないけど、アマトリアンのタチヤーナには最初から穏やかな品があったし、決闘後の幕切れで見せた凛とした佇まいにはドキッとさせられるものがありました。
それにしても、オーロラでも思ったんだけど、アマトリアンはなんて幸福そうに微笑むんでしょうね〜。オーロラではその微笑みでこちらまで幸せな気持ちになることができたし、一方タチヤーナではその夢見がちで幸福そうな笑顔が、オネーギンの苛立ちを増長させるようでハラハラもさせられました。手紙を書きながらウットリと頬杖をつく姿は、まだ幼ささえ感じさせ、恋に恋するよりもさらに現実味がない。3幕ではしっとりと輝くように美しい女性に変貌したアマトリアンでしたが、その無垢な笑顔は失われておらず、同じ年月の間にすっかり疲弊してしまったオネーギンとの落差が際立っていました。
フォーゲルのレンスキーも最高でした。踊りは申し分なし。NBSがアップした動画よりも、同じソロが格段に安定しておりました(因みにあの映像は2006年に収録されたものだそうです)。成長する男ですね〜♪ 今日のフォーゲルを見ていたら、レンスキーはもちろんピッタリだけど、オネーギンも悪くないんじゃないかと思ってしまいました。余計なお世話だけど、、、。でも、オネーギンを踊ることでレンスキーを踊らなくなるのは勿体無いほどピッタリではある。
フォーゲルとポリーナが日本で注目され始めた頃って、どちらかというとフォーゲルがポリーナのお相手役という扱いだったような気がするんですが(私だけか?)、もしかしてフォーゲルこそ将来のスターなのかもしれないと思い始めています。
決闘前のソロがすごく好かった。そして決闘の直前、オリガにギュッとキスをしてから突き放し、タチヤーナの手を静かに力強く握ります。オリガへの愛憎の入り混じった態度と、これまでの親愛に感謝するかのようなタチヤーナへの静かな握手。とてもいい場面でした。
雑感のつもりがちょっと長くなりましたので、この辺で、、、。オリガのカーチャ・ヴュンシュもグレーミン公爵のダミアーノ・ペテネッラも、とても好かったですよ〜。
予定を変更して、明日も見に行くことにしました。カラボスが格好良かったジェイソン・レイリーのオネーギンも、どうしても見たくなってしまったので。スー・ジン・カンも見られるし♪ 噂のラドメイカーくんも楽しみです〜。
キャストを書いておきます〜。
シュツットガルト・バレエ団『オネーギン』
2008年11月28日(金)18:30 東京文化会館
振付:ジョン・クランコ
音楽:ピョートル・I・チャイコフスキー
編曲:クルト=ハインツ・シュトルツェ
装置・衣裳:ユルゲン・ローゼ
オネーギン:イリ・イェリネク
レンスキー:フリーデマン・フォーゲル
ラーリナ夫人:メリンダ・ウィサム
タチヤーナ:アリシア・アマトリアン
オリガ:カーチャ・ヴュンシュ
乳母:ルドミラ・ボガード
グレーミン公爵:ダミアーノ・ペテネッラ
指揮:ジェームズ・タグル
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
あ、『眠り』で釘付けになった指揮者のジェームズ・タグルさんは、今日も素晴らしかったです〜。って、その辺は素人なのでよくわからないんですが、素人なりに「なんかすごい」と思いました。
2008年11月29日
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29日もすごくよかったです〜♪ ジェイソン・レイリーは今回の日本公演で初めて見たんですが、とってもいいダンサーでしたね。スー・ジン・カンは、もう流石!今日(30日)のアイシュヴァルトとバランキエヴィッチもよかったし、ダンサーが充実してますね。頑張ってレポ書きます〜♪